結構な腕前で!
第八章
 その日もしゅんしゅんとお湯の沸く音に癒されていると、不意にせとかの目が鋭くなった。
 お湯を汲もうとしていた手も、途中で止まっている。

「……来たな」

 魔が現れたときのせとかは格好良いなぁ、と見惚れる暇もなく、茶室の部屋から煙が吹き出す。

「南野さん、こっちへ」

 素早く片膝を立てたせとかが、萌実の腕を掴んで引き寄せる。
 萌実にとっては魔が現れるのは嬉しさ半分、怖さ半分。
 襲われるのは頂けないが、せとかと急接近できる絶好の機会なのだ。

 襲い掛かる煙に向かって、せとかが柄杓を振るう。
 小さな魔だと一撃で仕留められるが、大きくなるとさすがに一度叩いただけでは威力が若干弱まるだけだ。

「はっ」

 掛け声と共に、せとかは連続して柄杓を振るう。
 ぺぺぺぺぺぃっと目にも止まらぬ速さで打たれた煙は、その都度小さく砕かれてその辺りに飛び散った。

 つくづくせとかの反射神経には驚かされる。
 どうやったらこの柄杓一つで、迫りくる魔を過たず打ち落とせるのだろう。

「せとみがいないと、やっぱりちょっと手こずりますね」

 萌実を背後に庇いながら、せとかが呟く。
 本日裏部長はアイスが食べたいという謎の理由でお休み。
 子供か。

「ていうか、茶道部だからじゃないですか? 剣道部とかだったら、端から防具を身に着けてるし、得物も持ってるじゃないですか。竹刀のほうが、戦うにはいいでしょう?」

「いやでも、家は茶道の家元なので」

 よくわからない拘りだ。
 剣道着も似合うと思うんだけどなぁ。
 でも剣道は防具が臭いから嫌かな。
 せとか先輩が臭くなったら嫌だし。

「柄杓でも、似たようなことはできますよ」

 そう言って、せとかは手に持った柄杓を両手で持って構えた。
 これが竹刀だったら、さぞかし絵になっているだろうに。
 柄杓を構えられても滑稽である。
 つくづく残念だ。
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