初恋のキミは最愛ヒーロー

『昨日は……ごめんな、莉彩』


『………………』


『……行って来ます』


『………………』


翌日の朝。


いつもは玄関先まで移動して、“行ってらっしゃい”と笑顔で手を振って見送る私。


でも今日は、そんな気持ちになれなくて、声を掛けてくれたお父さんに言葉を返さず、黙ってリビングのテレビを見ていた。


お父さんがどんな表情をしていたのか分からない。


だけど、リビングを出ていく後ろ姿は、何だか寂しそうな雰囲気を漂わせてる気がした。


『莉彩の大切なスノードームを壊したこと、お父さん…凄く気にしていて、これまで見たことないぐらい落ち込んでたわよ?』


私の様子を見かねて、キッチンにいたお母さんが傍にやって来る。


声のトーンはいつもと変わらず穏やかだけど、表情は少し切なげだった。


『お母さんがテーブル周りで慌ただしく片付けていたから、お父さんが心配してリビングに持って行こうとしたの。悪気はないし、落としたのは決してワザとじゃないから…』


優しく頭を撫でるお母さんに小さく頷いた後、私は学校へと出発した。


< 304 / 436 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop