攻略なんてしませんから!


「アリア!しっかりして、アリア!」
「…ん、アイク…おにいさま」
「みゃう!」
「あら、アズライト様…。又獣化してしまいましたの?可愛い」
「暢気なお嬢様だな…。まったく」

 私を呼ぶ声に重い瞼をゆっくりと開けると、呼んでいたのはしっかりと私を抱き締めて、泣きそうな顔をしたアイクお兄様。心配症なアイクお兄様にこんな顔をさせてしまうなんて、帰ったらお説教かしら?
 ムニムニと頬に当たる柔らかな肉球の感触と、可愛い鳴き声に視線を向けると、モフモフの可愛いホワイトタイガーの姿になったアズライト様、そして、安堵の笑みを浮かべるジャスパー様が居た。
 きゅるきゅるの丸いエメラルドグリーンの瞳がじっと見つめてきて、ぎゅーっと抱き締められないのが悔しい。何で私の身体動いてくれないの!ふわふわの頭を私の頬に擦りつけて、大丈夫?と傾げられる仕草が本当に可愛い。身体が動いてたら抱き潰してるのに!

『みゃう』
『にゃう』

「こねこ、の…こえ」
「アリアが助けたんだよ、黒い子猫はもう大丈夫」
「わたし、が?」

 もっとしっかりと話をしたいのに、口が上手く動いてくれない。ぴょんぴょんと元気にお腹に乗ってくる二匹の子猫の姿を視界に入れ、嬉しさに微笑みを浮かべた。

「目が覚めたなら、もう大丈夫ですアトランティ侯爵。魔力が少なくなっているので、今日はもう帰って休んだ方が宜しいでしょう」
「ああ、ホーランダイト伯爵礼を言う」
「いえ、いつも侯爵家のお菓子を頂いております。感謝を少しでも返せてよかったですよ」
「また後日送らせよう、ホーランダイトは甘い物が好きだからな」
「それは、私も子供も喜びますね。親子で大好きなんですよ、侯爵家のお菓子」

 心に染み入る優しい声と、安心するお父様の低くて心地のいい声。ホーランダイト伯爵様の声は、柔らかくてとても優しい声をしている。ホーランダイト伯爵様は王宮でも稀なる回復魔法の使い手で、とても優しい叔父様ですの。伯爵家は回復魔法に特化した才能を持つ一族のようで、ホーランダイト家のご子息も才能を期待されています。
 癒しボイスって聞いてると眠くなるよねって思っていると、本当に瞼が重くなり、私はそのまま夢の世界へと入っていった。


『アメーリア』
『アメーリア!』

 小さい子が私の名前を呼んでいる。たどたどしい呼びかたなのに、覚えたての名前が嬉しいのか、グルグルと私の周りを回っている。白い猫の獣人のような少年と黒い猫の獣人のような少年、片方はハウライト、もう一人はきっと助けた黒い子猫だろう。

「もしかして、二匹とも聖獣だったの?」
『ボクタチ、二ツデ、ヒトツ』
『一緒に生まれたんです、だけど白と黒は一緒になれないと消されるところだったんです』

 白銀の髪とその上に同じ色の耳と尻尾、瞳は左を金に右目を青になっているのがハウライト。黒い髪にその上に同じ色の耳と尻尾、瞳は左が青で右が金のハウライトと同じ位の小さな可愛い少年。違うといえばニコニコと笑みを浮かべているのがハウライトで、表情の変化が少ないのがオブシディアン。
 
『私は、アメーリアの守護ハウライト、アメーリアと一緒に助けるのが役目』
『ボクハ、オブシディアン、アメーリアハ、ボク二何ヲ願ウ?』
「願い?」

 願いと言われても、ハウライトの時でさえ願ったのは偶然だった。あの時は兎に角、この二人を助けないとって必死だった。オブシディアンを見ると、一見無表情なのにわくわくとした雰囲気が凄く滲み出てる。顔の横にキラキラとした星が見えている感じで、待てをされている子供みたいで笑みが浮かぶ。
 子猫達は少年の姿になっているけれど、このオッドアイの瞳は懐かしさを感じてしまう。

「そうですわね、私は今の家族とも幸せですから、特に願いと言うものもありませんの。だから、ハウライトもオブシディアンも私の家族になって頂けません?」
『カ、ゾク?』
「一緒にいたいと言う事ですわ」
『居る。僕はハウライトと共に、アメーリアと一緒に居る』

 小さな二人の手が私の手をぎゅっと握り締め、ハウライトはにっこりと笑みを浮かべ、オブシディアンは小さく微笑んだ。オブシディアンの身体が月の光の様に優しい光を燈し、二人は大きな綺麗な白猫と黒猫の姿を現した。

『盟約に従い、我ハウライトはアメーリアの守護となる』
『盟約に従い、我オブシディアンはアメーリアの守護となる』
「宜しくお願いしますわ、ハウライト、オブシディアン」

 
 本来なら私の聖獣は『ギベオン』だったのに、どういった運命の悪戯なのか私の元には二匹の守護聖獣。ハウライトはきっと、もう一人のヒロイン『ルチルレイ』ルートでの聖獣だったハウライトだと思う。
 自信が無いのは、ゲームのハウライトと今のハウライトがちょっと違うからで、ゲームのハウライトは両目が金色でこんな無邪気な笑顔をしてい無かった。オブシディアンのように無表情で、ヒロインの言葉に何でも従う子だった。

(ギベオンは友達になれる感じの聖獣だったけど、ハウライトは聖獣というより付き従うものだったのよね)

 夢から目覚めた時、私は自分の部屋のベッドの上にいた。その傍らには、二匹の子猫と可愛い弟のラーヴァが一緒に眠っていて、その愛しさに笑みと涙が零れた。

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