誘惑。

「山田課長っ！いつ… し、してくれるんですか？」

誰もいなくなった会社のフロアに１人仕事をしている課長。

「……俺、いま忙しいんだけど？」

「知ってます。でも、課長が暇になる事なんてないじゃないですか…… 」

わかっている。

目の前でこちらに見向きもせず黙々とパソコンと睨めっこしている。

わかってはいるけど、口が先走る。

あの時の返事だって、本当は適当に返しただけなのかもしれない。

そう思うとなんだか虚しさと少しの怒りと。

そして無意識に、課長の顔に近づき半ば無理矢理に唇を奪った。

チュッと軽いリップ音だけを残し、触れたか触れてないかもわからないほどのキス。

私にとっては初めてのファーストキスだ。