Melty Smile~あなたなんか好きにならない~
と、あと一秒間はあるはずなのに。
その一秒を待たずして、彼は私の唇に口づけた。

触れた瞬間、びくりと身体が跳ね上がって、やがて温かくて柔らかな感触に酔わされた。
そこに存在することを確かめるように、緩慢な動きで、ゆっくりと唇が唇をなぞっていく。

瞳が開けていられなくなり、暗闇の中に落ちたら、余計に感触が鮮明になった。
離れては触れ、離れては触れを繰り返し、そのたびに胸の奥に広がるのは――彼への愛おしさ。

やがて触れ合う唇で、そっと彼が囁いた。

「少し激しくするけど、怒らないでね?」

次に唇が重なると同時に彼の身体も重なり、心地のよい圧迫感に襲われた。
彼が包帯の右手を庇うように肘をフェンスに叩きつけて、空いた左手を私の耳のうしろにまわす。

唇を割って滑らかなものが滑り込む。もっともっとというように、私の中を掻き乱す。

「……ん……んっ」

キスの圧力に耐えられなくなり、わずかに声を漏らすと、彼の左手が首筋に回り私の身体を支えてくれた。
その弾みで背中がフェンスから離れ、彼の腕の中に倒れ込むようにして収まる。
いっそう口づけが激しくなり、呼吸することもできなくて、気持ちのよさと薄れる意識に頭がぼんやりと霞がかってきた。

力が抜け、がくりと膝が落ちる。彼が慌てて右腕を回して支えてくれようとしたけれど、手に包帯を巻いているせいで、うまく支えきれない。
ふたりして膝をつき、私は彼の肩に額をつけるようにしてへたり込んだ。
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