Melty Smile~あなたなんか好きにならない~
「大丈夫ですよ。実家にさえ戻ってしまえば、あとは家族が一緒にいてくれますから、なんの心配もいりません」

私の作り笑いを見て、御堂さんは嫌そうな顔をした。
嘘混じりの愛想笑いなんて似合わないと言われたことがある。
きっと今も同じことを思っているんだろう。

「ひとつ、お願いがあるんだ」

御堂さんが瞳を閉じて静かに言った。

「実家に行く前に、少しだけ付き合ってほしい場所がある」

「……どこです? なにをしにいくんですか?」

「……最後の駆け引きをしに」

的を得ない濁し方をする彼に、なんだか嫌な予感がした。
同時に藁にも縋りたい思いで、その言葉の先にある希望に必死にしがみつこうとする。

「頼む。このままさようならなんてできない。やるだけやらせてくれ」

私だって同じだ。可能性がわずかでも残っているなら、賭けてみたい。

頷いた私を見て御堂さんの表情に決意が宿る。
不意に彼は電話をかけ始めた。廊下の端にある窓から険しい瞳で外を眺めながら、どうやらなにかの手配をしているみたいだ。話の内容までは聞き取れなかった。
何件か電話をかけ終わった彼が、私のもとに戻ってきた。

「少しだけ待っていてくれ。もうすぐタクシーがくる」

彼はオフィスへ戻り手早く用意を済ませたあと、私の手を引いて強引に外へと向かった。
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