・喫茶店『こもれび』


「彩夏ちゃん?」

「三好さん、おめでとうって彼女に言ってたけど。本当は違ったんじゃないの?」


ポーカーフェイス気取って、カッコつけて言っていただけなんでしょ?
本当は、ショックだったんじゃないの?
彼女に結婚相手がいるなんて、考えたことも無かったんじゃないの?


突っ込んだ質問をぶつけた私を、三好さんは暫く黙って見つめ返し。
一度だけ、キュッと唇を結ぶと。再び、ゆっくりと口元が動き出した。


「ホッとした。肩の荷が下りた気がした」

「え?」


意外な返事に、どういう意味だかすぐには理解できなくて。
ポカンとした顔を向けていた私を見ながら、三好さんがふわりと笑った。


「酷い男だって思うだろ? さっき、麻衣が結婚するって聞いた時、安心したんだ」

「意味わかんないよ」


「そっか。彩夏ちゃんには、まだ分かんないか」と含み笑いを浮かべ、三好さんは珈琲カップにカフェモカを作っている。


そういうことじゃないの。
三好さんの気持ちが分かんないって意味だよ。
ずっと彼女のことを忘れられずにいたんでしょ?
なのに「肩の荷が下りた」とか「安心した」とかって、どういうことなの?


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