副社長のイジワルな溺愛

 声を出すこともできず、視点が定まるギリギリを保って彼が見下ろしてくる。

 まっすぐに、情欲的に。


「半端な優しさなら、世の中に腐るほどある。君はそれが欲しいのか?」

 彼は視線を逸らすことも禁じ、私の両手を取って押さえつけた。


「傷心の君に迫るような悪い男だけど、俺はたった一人だけを特別に愛する。他の女に一パーセントも見向きしない分、全てを一人に注ぐ」

 言葉と瞳の熱量とは裏腹に、彼が私にそっと口づけた。

 ドキドキしていた鼓動ごと奪われた気がする。
 三秒ほどのキスで動揺した私を優しく見つめる彼は、知っている副社長じゃない。


 私が見てきた副社長は、もっと冷徹で、言葉は刺さるほど鋭くて……。
 だけど、時々優しくて。


「俺の女になれ」
「っ!? あのっ……」
「答えが出たら報告しなさい。俺はいつまででも待ってやる」


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