副社長のイジワルな溺愛

 私に何があったかなんて知る由もない香川さんは、倉沢さんの話題を朝から持ち出してくる。

 彼の名前を聞くだけで、胸の奥が苦しい。
 想いを伝えられて少しはスッキリしたけど、やっぱり受け止めてほしかった。
 できれば、離れたくない――。


「来期こそは、倉沢さんとたくさん接する機会を設けなくては!」
「ん?」

 意気込んでいる香川さんに疑問を投げる。
 来期の頭を待たずにマレーシアに行ってしまうことを、彼女は知らないのかな。


「倉沢さん案件に携われるように今からでも頑張って、もっとたくさん話すんだ。友達でもいいからお近づきになりたいなって」
「……そっか」
「深里さんみたいに、構ってもらいたいし」
「私は、別にそういうのじゃないよ」

 戻りたいな。
 見かけるだけで、一日を幸せな気分で過ごせた日々に。

 告白しなかったら、どうなっていたんだろう。
 マレーシアに行くことを教えてもらえず、ある日突然会えなくなって……もっと悲しい気持ちを抱えていただろうか。


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