誰も知らない彼女
若葉が嫌がらせを受けて、精神的に参っている場面を見たとき、私は彼女に近づいたらいけないという危険信号を感じて動かなかった。


若葉がテストで私に学年トップの座を奪われたと叫んだときには、いいかげんにしろと怒鳴りつけた。


心の中で彼女の存在がうとましくなったわけではないけど、反射的に自分の気持ちを表に出してしまったのだ。


若葉には申しわけないけど、もう少しだけ秋帆たちの嫌がらせに耐えてほしい。


秋帆は飽きっぽいから、きっとすぐに嫌がらせのターゲットを変えると思う。


そう思いながら、チラッと若葉の席を見てみる。


教室に若葉の姿はないが、机の横にカバンがかけられているので学校には来ているようだ。


ひとりでどこかに行っているのだろう。


若葉への嫌がらせは日に日にエスカレートしていったから、嫌がらせに加担する生徒が多くなっているはず。


だから頼るところが他にはなくて、どこかわからない場所に隠れているだろう。


職員室に行って先生たちに事情を説明しようとしても、先生たちは死体遺棄事件のせいで話の相手になってくれないと考えたほうがいい。


若葉が今ひとりぼっちでいることに心にダメージを受けるが、今の私にはどうすることもできない。


「そっか……。疑われたら、もう二度とここに戻ってこられないかもしれないもんね」


自分に言い聞かせるようにポツリとひとりごとをつぶやく。
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