誰も知らない彼女
小さくため息を吐きだしてうなずいた。


そのときにくわえていたコーンをそのまま飲み込んでしまいそうになったが、それを掴んでなんとかおさえた。


心の中でひと安心しながらチラッと悠くんの表情を見てみる。


悠くんは泣いているのか怒っているのかわからない複雑な表情をしていた。


眉間にシワを寄せていて、目がわずかにうるんでいるような気がした。


いったいどういう気持ちなんだろう。


「悠くん……?」


コーンを食べ終わってささやき程度の声で悠くんに声をかけると、はっと目を見開き慌てた顔をこちらに向けた。


「そうか、抹里はあの男に恋してるんだな。そういうやつが羨ましいなと思って、つい」


額から大粒の汗が流れていることにも気づかず、必死に笑顔を作っている悠くん。


彼にしては苦しい言いわけだ。


焦っているときの悠くんはなにかを隠している。


小さいころから遊んできたから、彼のクセはだいたい理解できている。


今言った言葉は嘘だ。


本当にそう思っているとは思えない。


じつは悠くんもなにか相談したいことがあったりして。


「……へぇ」


そう思っていても、悠くんに直接本音をぶつけたらどうなるか想像できてしまうため、口に出すことができなかった。


なにか言いたいなら言えばいいのに。


たとえいとこ同士でも私には隠しておきたいことなのか。


そう思うと胸が痛くなる。
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