誰も知らない彼女
ただ単に自分だけ違う意見を言ったときの由良たちの反応を見るのが怖いから。


止めようと心の中では言うけど、みんなに囲まれて罵声を浴びせられる若葉を横目で見るだけしかできない。


「ち、違うよ……。わ、私は誰もなにも騙してないよ……。信じてよ……!」


カバンを大事そうに抱える若葉の姿がとても小さく見えた。


私の席と若葉の席は離れたところにあるため遠くからしか見えないけど、若葉の目から出た涙が頬をつたってカバンに落ちる瞬間を私は見逃さなかった。


だけど、そんな願いもむなしく、若葉を囲うクラスメイトたちは鼻で笑った。


「はっ。騙してないって、なんでそう言いきれるのよ。誰かがその場面を見てたから? 誰もそんな場面見てないでしょ」


「しかもそれで『信じて』なんて、マジで笑えるんだけど。私たちが性格ブスのお前の言うことなんて信じると思った?」


「お前バカじゃねぇの? 学年トップの成績もなんかコネ使ったんだろ。汚ねぇ」


「そういうところがムカつくんだよ。ねぇ、私たちでこいつを蹴らない?」


その言葉で私はとっさに立ちあがった。


だけど体が言うことを聞いてくれなくて、その場から動けなくなる。
< 61 / 404 >

この作品をシェア

pagetop