誰も知らない彼女
自分で自分を傷つけながらそんなことを思っていると、頭に手が置かれたような感覚に襲われた。


私の頭に誰が手を置いたかなんて、言わなくてもわかる。


ポンポン。


「磐波さん……」


そっと視線をあげた先にあるのは、焦りを感じさせないやわらかい微笑みだった。


まるで今までの表情がすべてなかったかのような笑顔だ。


私のすべてを包み込むような、包容力のある微笑に鼓動が高鳴るのを感じた。


今はそんなことを感じてる場合じゃないよ、私。


だけどそんな考えが吹き飛んでしまうほど、磐波さんの笑顔と手にぬくもりが体中を支配した。


あったかい……。


これで目の前で起こったことすべてが記憶の中からなくなってしまえば、どんなに楽だろう。


もう、いいや。


今はもう、視線のこととか若葉への嫌がらせとかは考えなくていいよね。


「磐波さん……ありがとうございます……」


涙がこぼれるのを覚えながら微笑む。


だけどこのとき、また奇妙な視線が私を見ているなんて知るよしもなかった……。
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