あなたしか見えないわけじゃない
島の最後の1週間はありがたいことに送別会ばかりでにぎやかに過ごした。
洋ちゃんは島の皆さんにお礼を言うためと私の迎えのために私が島を離れる2日前には休暇を取って来る予定だったけど、仕事の都合で急に来られなくなってしまった。

まぁ、そんなこともある。
残念ではあるけど、すぐに会えるから問題なし。
島の皆さんには改めて2人で遊びに来ると約束した。
それよりも毎日忙しい洋ちゃんの身体が気がかりだ。

島の皆さんと涙、涙のお別れをし、やっと私は横浜に戻るため羽田空港に降り立った。
洋ちゃんのマンションまであと少し。



「志織」

この心地良い低音ヴォイスは…

「洋ちゃん!」

「よかった、入れ違いにならなくて。午後から休みを取ったから迎えに来たよ」

2ヶ月振りの洋ちゃんを見て嬉しくて鼻の奥がツーンとする。涙が出そう。
病院からそのまま来たらしい。ワイシャツとスラックス姿。
辺りにいる空港スタッフのキレイな女性や空港利用客の女性がチラチラッと洋ちゃんを見ているのがわかる。

嫌だ。洋ちゃんは私のだから、誰にもあげない!
私はぴたっと腕に絡み付いて背の高い洋ちゃんを見上げた。
「ただいまっ!」

「お帰り。どうした?外で甘えるなんて珍しいな」
洋ちゃんは笑顔でいつものように軽く頭を撫でてくれた。

「だって、その辺にいる女の人たちが洋ちゃんを見てるから、私のだってアピールしなきゃと思って」
と久美さん仕込みの笑顔で答えた。

「俺の方は心配いらないって。志織の方が心配だったよ。ほら、その笑顔」
そっと私の頭のてっぺんあたりに軽く唇を付けた。

「漁港の正樹さんとか役場の菊川さんとか原さんあたりに志織をさらわれたらどうしようかと思って心配したよ」

「そんなことあるはずないじゃない」
ふふっと笑った。

うふ。洋ちゃんからのスキンシップもかなり嬉しい。

「はぁー、帰ってきたーって感じ」
しがみついている腕にすりすりと頬ずりして、洋ちゃんの感触を確かめた。

「さぁ、帰るよ」
洋ちゃんはにっこりと笑って私の背中を軽く押し出すようにして歩き出した。

「うん」
私は洋ちゃんの側に帰ってきた。
本当に帰って来た。
以前は幼なじみ。今は恋人として。

新しい生活がまたはじまる。

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