あなたしか見えないわけじゃない
「フカヒレの話なんてて聞いたらお腹すいちゃったじゃん」

早川が口をとがらせる。
本当だ。もう22時を過ぎている。

「せんせー、宅配ピザでもごちそうして下さいよー」

キラキラした瞳で小出さんが石田先生を見つめる。

「え?僕?何で僕?」

「だって、私は横山先生と親しいわけじゃないし」

早川は裏の休憩室からピザのメニューを持ってくる。

「いいじゃないですか。今夜は落ち着いているし、歓迎会に行き損なったメンバーでピザ食べましょうよ~」

「もう。仕方ないですね。横山先生もご馳走しますからお時間があれば一緒にどうぞ」

「石田先生、ありがとうございます!やった」

「石田先生、太っ腹~」

みんなでガッツポーズ!
テーブルにメニューを広げてどれにしようか悩んでいるとまた新たな声がした。

「お疲れさまです」

振り返ると私服のイケメンドクターだった。
全員が驚いた。

「先生、今日は先生の歓迎会じゃ?」

小出さんが聞く。
そう、今頃は2次会のはず。

「はい、1次会が終わって2次会に移動する時に抜けてきました。今からまた戻ります。これ、夜勤の皆さんに差し入れです」

持っていた大きな紙袋を差し出した。
早川が受け取り中をのぞき込む。

「わ、いい香りがする」

「ええ。1次会のお店でテイクアウト用に作ってもらいました。夜食にして下さい。たくさんありますからよかったら、先生方も」

ニコッと笑う。

「きゃー、先生ありがとうございます。ごちそうになります」

「美味しそうな香り!ごちそうさまです」

「いやぁ、今彼女たちにたかられてたところだよ。助かった。ありがとう」

「俺もいいですか?ごちそうになります」

石田先生も横山先生もみんなお礼を口にする。

「……ありがとうございます」

驚きすぎてすぐに声が出なかったけど、私もかろうじてお礼を言った。

「じゃ、2次会に合流してきます。落ち着いた夜みたいでよかったです」

そう言ってニコッと笑いまた出て行った。

「ちょっと!何!やることもイケメンじゃん」

「さすがにこれはなかなかできないね」

「見て下さいよ。こんなにたくさん!」

紙袋の中からは暖かいピザが4枚。みんな種類が違う。
保冷袋には色とりどりの一口サイズのスィーツが。

ふぅん、
ますます近付いちゃいけないタイプのイケメン。

みんなと一緒に騒いだりしたら木村さん以外のイケメンドクターファンのスタッフにもイジワルされそうで恐ろしい。

でも、食べ物に罪はない。
深夜勤務のスタッフ分を残して、みんなで美味しくいただいた。


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