あなたしか見えないわけじゃない
周布先生の外来診療日は残り番にならないように気を付けた。
周布先生と面と向かう勇気は無い。
あちらも今さら私と話すことはないと思うけど。


私はある決意をして洋兄ちゃんに相談を持ちかけた。
洋兄ちゃんに
「自分で決めたくせに。それは相談とは言わない」って言われた。
あはは、そりゃそうか。

私の決意
今の病院を辞めて自分を見つめ直すこと

都会の最先端技術の医療現場を離れて人と接する医療に携わりたくなった。
山奥の無医村でも瀬戸内海を回る医療船でもいい。1人でもナースを必要としてくれる所がいい。
一度横浜を離れたいってだけでなく、違う医療現場が見たかった。

そんな所に行きたいと言うと、
「それなら、俺が行っていた離島に行ってみないか」
と言う。

洋兄ちゃんは離島の診療所をやっている先輩ドクターが病気療養中だった時に代診医としてしばらく勤務していた。
ナースも高齢になってやめたがっているし、50代のドクターも病み上がりで無理はできないし、奥さまは医療事務はできるけどナース資格はなく看護助手も無理らしい。

洋兄ちゃんとしては「そこになら行ってもいい」らしい。
洋兄ちゃんのお許しが出たところで、早速離島のドクターに連絡を取ってもらった。

それと同時に師長に退職したい旨を伝えた。

「私の都合ですから、退職時期はお任せします。他のスタッフに欠員でこれ以上迷惑をかけたくありません」

看護部長室に呼ばれて、看護部長だけでなく、心臓外科部長、循環器の部長や事務長にまで引き止められたけど、私の決意が固いとみると離島に送り出してくれることになった。

「志織ちゃん、寂しいよ」と部長に言ってもらえたことは今まで頑張ってきた私の勲章だ。
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