あなたしか見えないわけじゃない
木村さんは定時に上がり他のメンバーと飲み会へと繰り出して行った。

ふぅー、やれやれ。行った、行った。
私も処置は時間内に終わらせて、後に回した事務仕事を残業している。

「藤野さんは参加しないの?」

いきなり隣から声をかけられて驚いた。

「ごめん、びっくりした?今、アニメみたいにビクッとしてた」

クスクス笑っているのはイケメンドクター。

驚いてどきどきしてしまった。
しかも、私の名前を知っているんだ。それも驚き。だって、全く接点無いのに。

「先生こそ。今日は三村会ですよね」

「今から行くんだ。ちょっと仕事が終わらなくて先に行ってもらった。で、藤野さんは?」

「私は行きませんよ。三村会って参加メンバーが限られているんです」

そこまで言ってそっと周りを見渡した。
今、ナースステーションには研修医と私の後輩ナースがいるだけ。
でも、こうしてイケメンドクターと話をしているところはあまり見られたくなかった。

過去の経験から、誰に何を言われるかわからないから。

「ふぅん、そうなんだ。残念」

何が残念なんだか知らないけど、早く行ってくれないかな。

「先生も早く合流した方がいいですよ。お疲れさまでした」

そう言って私は自分の手元に視線を落とした。
さぁ、いいから早くいなくなって。

「うん、行ってくる。お疲れさまでした」

私の背中にイケメンドクターは声をかけて出て行った。

はぁー、もう心臓に悪い。
ここ循環器の病棟だよね。私が循環器疾患になりそうなんだけどっ。


「ふじのー。イケメンドクターは何だって?」
またいきなり後ろから声をかけられた。

「早川!……見てた?」

「うん、廊下からチラッとね」

「三村会に行かないのか聞かれただけだよ」

「そっか。あんたも大変だね。ちょっときれいだからってさ、女の世界じゃ立派な妬みの対象だ」

「いや、私は別にきれいじゃないよね」

「中身知らない人から見たら藤野は結構な美人だよ」

「はやかわっ、私の中身はどうだって?ん?」

怖い顔をして見せて、2人で笑う。
少し、気分転換になった。持つべきものは友だちだ。




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