あなたしか見えないわけじゃない
「志織、これから何をしたいのか決まったら俺に教えてくれる?」

「もちろん。1番に報告する」


「洋兄ちゃん、やっぱりハグして」
両手を広げてねだる。

「もちろん」
笑って私を抱き寄せた。
ああ、やっぱり洋兄ちゃんは温かい。





最近、周布先生の事を思い出して傷つくことは減っていた。

それよりも、洋兄ちゃんの事を考えてドキドキするようになっていたから。

今まで、父親以外で1番近い身内のような男の人だった洋兄ちゃん。
洋兄ちゃんには家族のような感情だった。

でも、あの日私のSOSに即座に応えてくれた。
洋兄ちゃんに鼻を噛まれて初めてドキドキした。
私が抱きついて猫の真似をしたら、顔を赤くした洋兄ちゃん。

離島の診療所行きが決まってから私の体調を心配して、洋兄ちゃんと私はマンションで半ば一緒に暮らしていた。
私の心身が健康じゃないと離島には出さないと言って。同居は私の健康観察だったらしい。

でもその同居期間、私は今までになく洋兄ちゃんを男性として意識するようになっていた。

昔から格好良くてステキなのは知ってる。でも今まで考えたことがない、洋兄ちゃんの男性としての色気。

今まで洋兄ちゃんの前では自然体でいられた。
洋兄ちゃんを男性として意識するようになると、少し遠慮が出た私に洋兄ちゃんは気が付いただろうか。

コーヒーを淹れる仕草にドキッとする。
お風呂上がりのTシャツとスエット姿で髪を拭く姿にも、
スーツ姿にもドキドキする。
私の作った夕食を「おいしい」と言って笑顔をみせられるとどうしようもなく胸が高まる。

これは『恋』

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