あずゆづ。
「あ~もうバレーボールマジ最高……!!!」
「珍しいね、あずが男子のバレーを真剣に見るなんて…。しかもこーんなに鼻血だらだら出しながらさー」
「体育万歳……!!」
「あず、得点」
どくどくとあふれ出る鼻血なんか気にせず、私はゆづくんチームの点数をバッと勢いよくめくる。
私とひよりは男子チームのゲームの得点板の係だ。いくらゆづくんのパーフェクトマッスルに見とれていようと、しっかりと点数はめくる。
「うはあ、うはあ…」
「てか、優樹くん…『くたばれ』って…」
ひよりがゆづくんの台詞にぷっとふきだして笑った。
でも私はまばたきする一瞬の時間すらも惜しく、じっとゆづくんの筋肉を見つめ続ける。
「おっしゃゆづナイス!!」
「おらああ!! かかってきやがれ愚民共ォ!!」
得点を決めたゆづくんの元へ集まる人たちを余所に、ゆづくんは相手チームへ向かって再度叫んだ。
その時私は初めて、ゆづくんの筋肉ではなく、ゆづくんという人間への関心を持った。
本当、口悪いなあ……。
しかしそれもそこ止まりで、再び彼の筋肉へと視線が戻る。
あ~、あの筋肉、今すぐにでもスケッチしたい。
跳躍した時のあの体のラインのしなり具合……
最高過ぎるでしょ…。
でも体育だし、そもそも授業だし、描くもの何も持ってないし。
ティッシュじゃ抑えられないくらいには鼻血出てるし。
ん?
『ティッシュじゃ抑えられないくらいの鼻血』?
「あず、鼻血の勢い止まらない…っていうかさっきよりも増してるような…?」
横から本当に心配そうなひよりの声がする。
しかし私の鼻血はとどまることを知らず、ドクドクと音をたてて溢れてきて。
「…おおお?」
なんか。
世界が……回る…!?
やばいと自覚したときには、もう遅かったようだ。