あずゆづ。
あいつを初めて見たときは、体育の時間だった。
人が集まって騒いでいると思ったら、得点板の隣で大量の鼻血垂らして倒れてた。
一番力がある奴ってだけで野郎(先生)に『保健室連れてけ』って言われて仕方ねーから連れてって。
けど、6限終わっても目ェ冷まさねえェし。
保健室連れてった責任で最後まで見ろとかわけのわかんねえことまで言われて、とりあえず目を覚ますまで待つことになった。
姉貴の手伝いのバイトもサボれるし、こんなところでずっと待ってるのだって本当は面倒くせェけど、ちょうどいいやなんて思っていた。
んで、目を覚ましたと思ったら、帰り道また鼻血噴くし。
しかも、尋常じゃない量を、だ。
メガネだし。
マジなんなんだこいつはって。
そんなふうにしか思ってなかった。
それ以外はなんとも、本当になんとも思っていなかった。
そしたらどうだ。
話したこともねえのに馴れ馴れしく『ゆづくん』なんて呼んでくるし。
なんか知らねえけど、やたらと褒めちぎってくるし。
普通の女なら俺のこと怖がって、話しかけるどころか寄りつこうともしなかったのに。
メガネが、他の奴らに俺のこと話してる声も聞こえてきて。
一緒にいて怖くないのか、と聞かれて。
そしたら俺のこと怖くないって言ってた。