あずゆづ。
「じゃあなーゆづ!!」
「死ね」
「ねえそれ挨拶!?」
よだれを拭き取ったティッシュをくるくると丸めていたとき、パーフェクトマッスルの声が聞こえた。
「!!」
私はすぐさま気の陰に隠れ、その姿を目で追った。
数日間追っかけをしていたこともあり、彼の声や存在自体に対する反応がとても早くなった気がする。
ふと、私はここで、大きな選択を迫られていることに気づき動きを止めた。
ゆづくんの筋肉の追っかけをするのは学校にいるあいだの休み時間だけ。
放課後はいつもここで、一日の振り返りとして彼の筋肉を思い出してうはうはしながらスケッチブックに描き出していた。
授業で言えば復習をするようなイメージ。
だから、放課後になってからは、ゆづくんの筋肉を追いかけたことは今までなかった。
「…………」
そうしている間にも、ゆづくんはお友達さんと一緒に校門まで歩いていってしまっている。
やばい、パーフェクトマッスルが行ってしまう。
貴重な放課後パーフェクトマッスルが。
放課後に何が起きるかというと、おそらく彼は今着ているあのタンクトップを脱ぐ機会が必ずあると思うのだ。
……いやもちろんなんの根拠もないが。
可能性の話というよりかは、純粋に自分自身が抱く願望の話といった方がいいだろう。
単刀直入に言ってしまえば。
……追っかけしたい。
それが素直な気持ちだった。
私は急いでスケッチブックやシャープペンたちをリュックの中に仕舞い、ゆづくんたちがあとにした校門まで走った。