王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
 



 屋敷の呼び鈴を鳴らした途端に、勢いよく開かれた扉からは、マリーの両親が彼女の名を叫びながら飛び出してきた。

 ミケルに抱えられたマリーを見るなり、怒りだすかと思った父は全身の力が抜けたような表情で安堵し、母はその場で泣き崩れてしまった。

 手当てを受けた足で立つマリーをふたりは存分に抱きしめてから、ミケルに盛大なる謝辞を述べた。

 ミケルからは、マリーは珍しい蝶を追いかけているうちに、森へ迷い込んでしまったのだと伝えられた。

 その場には姿を見せないウィルのことは少しも告げられず、何も言わずに目を潤ませていたエレンもマリーを問い詰めるようなことはしなかった。

 自分がとった行動は誰にも褒められるものではなかった。

 こんなに両親を哀しませ、周りを巻き込んでしまったのだから。

 だけど、その中でも間違いではなかったものがひとつだけ、マリーの心に深く強く刻み込まれている。


 ウィル、貴方を愛しているこの想いだけは、……生涯決して失くしたりしないわーー。




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