結婚適齢期症候群
見上げた先には、背の高い日本人男性が私を見下ろしていた。

少し長い前髪で目元がかくれているけど、明らかに整った顔立ちをしていた。

白いシャツに、黒のジャケットを羽織って、ラフだけど品のいい服装だった。

そして、横には大きなスーツケース。

やっぱりスーツケースにしときゃよかったよね。これならそう簡単に持って行かれないもの。

「大丈夫ですか?」

その男性は心配そうな顔をして再度尋ねた。

「すみません。全然大丈夫じゃないです。」

「そんな感じだよね。」

その男性は苦笑した。

そして、私の腕をつかんで、軽々とひっぱり起こしてくれた。

一見きゃしゃに見えたけど、そうでもないみたい。

「ありがとうございます。私、もうどうしていいかわからなくって。」

日本人に出会えたというだけで、こんなにも安堵するものなんだろうか。

見ず知らずのこの人が、神様みたいに見えた。

「ひょっとして置き引きにあったの?えらく軽装だけど。」

「はい。まさに。足下にちょっとだけ置いてたらあっけなく持ってかれちゃって。」

「足下に置くなんて、非常識なことする人だな。ここどこだと思ってるんだ。」

彼はため息をついて、冷たく言い放った。

さっきの「神様みたい」は速攻撤回。

「あんまり、海外慣れしてないもんで。」

私は少しムッとして言った。

「そうだろうね。」

でも、今頼れるのはこの人しかいないわけで。

ここで、こいつに見放されたら本当にやばい。

気を取り直して、できるだけ頼りなげに尋ねた。

「あのう、私一人で今ここに着たばかりで。どうしたらいいですか?」

「とりあえず、警察には届けといた方がいいと思うよ。ほぼ見つかる可能性はゼロだけど。」

見つかる可能性ゼロ?

警察届けとけっていいつつ、それは言わなくてよくない?

イライラする気持ちをぐっと堪える。

「警察ってどうやって届けたらいいんですか?」

「どうせ、英語しゃべれないんだろ?とりあえず警察まで俺が一緒に行って事情説明するよ。」

「あ、ありがとうございます。」

お礼は言ったものの、なんて上から目線。

こいつって、本当に余計な一言多いよね。

「確か空港内に警察署があったはずだから、そこに行こう。」

彼はそう言うと、ゆっくりと歩き始めた。

「あなたもここに一人旅ですか?」

「まぁ、そんなとこかな。」

「ひょっとして私と一緒の飛行機?」

「多分ね。」

なんて、会話がはずまない人なんだろう。

もうちょっと愛想良かったら、顔もスタイルもいいからモテると思うけどね。

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