君のために未来を見よう〜教王様の恩返し〜

 欲情

その日の夜。

フィーは寝付けずにいた。
レイとの会話が次々と頭の中に浮かんできて、その一つ一つの言葉を自分の中で咀嚼せずにいられない。

『やつと結婚したいなら尚更』

アルベール様と結婚?
そんなこと考えたことがなかった。

……違う。

今の身分でそれを思うのは分不相応すぎる。夢ですらない。
偶然の再会で舞い上がってはいるが、それ以上の関係を望むべくもない。

思わず口角が上がった。

意外と自分の境遇を受け入れている。
『没落貴族』という劣等感から開放されたのだろうか。
浮足立っているようで、どこかの一線は冷静で。

そうなるまでに必要な期間がフィーにとっては3年だったのだろう。


ドスン。

突然、隣の部屋で大きな音がした。
耳をすませ、音で様子を伺う。
また、女性が訪問しているのだろうか。
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