好きになった人は吸血鬼でした。ーさくらの血契1ー【完】
「……あなたは、誰なの? どうして私に、そこまでしてくれる……?」
今しかなかった。でも、もう言うことはない。
鍵のかかった部屋の、真紅の秘密の言葉。声に出せば叱られる願い。秘密の小さな願いだった。
部屋の鍵は開いた。中は空っぽ。
言葉、消えてしまった。見つめて来る銀の瞳の、その奥に。
とても、触れてみたい。この人に、優しくされてみたい。この人は、優しい。
わたしにやさしい。銀の人。
真紅は身のうちの感情に困ってしまう。
なんでこんな、初対面の怪しさ満載の人に一喜一憂されなければならない。
たくさん怒られたのは、たくさん心配していてくれたからで。
真紅の言葉もちゃんと聞いてくれて、彼なりの答えをくれた。
あ――こわく、ない。最初っから真紅は感じていたことだ。この人は、怖くない、と。
「あの、寒い……でしょ? 投げちゃってごめんなさい……こっち来ていいよ?」
「んー、それは駄目」
青年は困ったように首を傾げてからはっきり断った。
さっきまでの強引に奪ってくるような態度とは違う。