もう一度、名前を呼んで2
あたしがアメリカに行ったばっかりのころ,ジュリアはモデルの仕事に飽き飽きしていた。やる気もなくて,たぶんほとんど仕事なんかしてなかったと思う。
ごくたまに「断れないプロデューサーに声をかけられた」と言ってショーに出たりしていたけど,テレビには出ないしSNSのフォロワーにも全然こだわりがなくて,深夜に肉の写真をあげたりして“意識が低い”って叩かれたりするのを笑ってるような人だった。
あたしよりも6歳年上でお姉ちゃんみたいな存在だった。
優しくて,変なこととか危ないことをすると叱ってくれて,初めて生理が来て怖くて泣いたあたしに色々教えてくれたのはジュリアだった。…お姉ちゃんというより,ママだったかもしれない。
初めて会ったときはすっごく怖くて,「ここで何してんの?あんた誰?」って英語でまくし立てられて,怖くて泣いたなあ~
あたしがエドに出会うより先にジュリアはエドと友達だった。友達というか,同志というか,仲間というか…
あたしの知らない二人の繋がりがあって嫉妬したりもしたけど,エドとの仲を取り持ってくれたのはジュリアだったと思う。複雑だっただろうに…今となってはジュリアの気持ちを考えたりもするけど,当時はそんなことなかった。
…あたしのママみたいな存在のジュリアだから,今頃怒っているかもしれない。
誰にも何も言わずに勝手に日本へ帰ってきて,連絡手段もすべて断って,急に切り離したんだから…
だから,傷ついたエドをジュリアが癒して欲しい。
ジュリアしかいないと思う。
なのに,日本に来るって?
エドはどうなったんだろう。
あの時…エドは…
怪我で済んだんだろうか?それとも…
ジュリアが何のために日本に来るのかはわからないけど,絶対に会いたくないと思った。
まあ居場所もそう簡単にはわからないだろうし,ショーがあるような都心とは違うところに住んでいるし…会うことはないだろう。うん。
そうやって自分を納得させたけど,本当に会いたくないのか,自分の気持ちがよくわからなかった。