クールな公爵様のゆゆしき恋情 外伝 ~騎士団長の純愛婚~
 鍵のかかる音がして、それから足音が遠ざかっていく。

 しばらくここに閉じ込められるのだろう。

 今の男に見覚えは無かったけれど、サウル王子の従者だろうか。
 それにしては貴族を憎んでいるかのような口ぶりだったけれど……そんな事を考えていると、ヘルマンの泣き声が聞こえて来た。

「ううっ……痛い、腕が……」

 ヘルマンは、つき飛ばされた時の体勢のまま起き上がれないようで、地面に顔をつっぷしたまま泣いている……この人は本当に次期ベルツ家の当主なのだろうか。

 その情けない姿を見ていると、こんな状況だと言うのに力が抜けてしまいそうだ。

 内心呆れながらも、仕方なくヘルマンに手を差し伸べる。

「大丈夫? 手を貸すから起き上がった方がいいわ」

 するとヘルマンの身体がビクリと震え、恐る恐るといった様子で顔を上げてきた。

「グ、グレーテ様?」

 もしかして、私が居る事に気付いていなかったのだろうか。

「腕を怪我したの? 見せて」

 ヘルマンの上半身を何とかひっぱり座らせてから、腕の様子を確認する。
 見た感じでは酷い怪我はしていないようだけれど。
 両腕を縛っている縄を外そうとしたけれど、かなりきつく縛っていて、私には緩めるのが精一杯。外すことができなかった。

「どこが痛むの?」
「わ、わかりません。全部痛くて……この俺をあんな風に突き飛ばすなんて、あいつは一体誰なんだ」
「味方でない事だけは確かね。サウル王子の近辺で見かけたことはないの?」

 そう尋ねると、ヘルマンは困ったように首をかしげた。

「分かりません。サウル王子には何人か従者がついてましたけど、俺は従者なんかとは話さないから顔なんていちいいち覚えていません」
「……そう」

 なんの手がかりも無いと言う事だ。

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