あの夏の続きを、今


その日は午前中のみの練習で、ひたすら音楽室での合奏だった。


曲はほとんど完璧といってもいい具合に仕上がっていて、最終調整である今日の合奏では、新たな指摘はもうほとんど入ってこない。


今まで言われてきたことを、どれだけ忘れずにきっちり守れるか。


今まで積み上げてきたものを、どれだけ発揮できるか。


私たちの演奏に残された課題は、もうそれだけだ。



明日の出番は朝早くからなので、練習は早めに切り上げられた。


「今日はもうゆっくり休んで、明日に備えなさい」


最後に寺沢先生はそう言ってから、「じゃあ、合奏終わり!明日は頑張ろう」と言った。


そして、全員が立ち上がり、部長さんの合図で合奏の終わりの挨拶をする。


「ありがとうございました!」

『ありがとうございました!』


全員が礼をしてから、それぞれがクールダウンと片付けを始める。


私が片付けを終えた時、アカリ先輩の声が聞こえてきた。


「カリンちゃん、志帆ちゃん、ちょっと来て〜」


嫌な予感を感じながらも、渋々アカリ先輩のもとに行く。


カリンは不安そうな顔でやって来た。


アカリ先輩が、私とカリンを前にして、真剣な表情で話し始める。


だが、アカリ先輩の視線は全く私には向いていないのが、はっきりと分かった。


────もう、何が言いたいのかは、分かってるから。


私は不機嫌な表情で話を聞く。


「えっとね、うちがいろいろ考えた結果、次のパートリーダーは、カリンちゃんということになりました。

けど、パートリーダーの仕事をカリンちゃん一人でこなすのは大変だと思うから、志帆ちゃんもカリンちゃんをサポートしてあげてね、特に技術面では……」


その話を聞き終わらないうちに、私の心の中には、わなわなと怒りが込み上げてきていた。


今まで溜め込んできた負の感情が、どろどろと溢れ出していく。
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