あの夏の続きを、今


曲の後半になり、Trioが終わると、音は一気に高くなる。


音の形をなんとか保ちながら、遥か遠くの客席まで届ける。


駆け上がっていく音。クレッシェンド。


大丈夫。これまでやってきたことを、このステージでいつも通りこなすだけなんだから。


何も、怖いことはないはずだ。


やがて、曲は終盤に差しかかる。


────いよいよ、私のソロだ。


全員が一体となって奏でる音。それがぴたりと途切れると、一瞬の静寂の後にシンバルの音が力強く響き渡る。


その音を合図に、私は大きく吸った息を、音へと変える。



最初は滑らかに、そして最後は駆け上がるように────





────ラーラーラーーラー、たったったったーん、パパファッ…………






………………!!








────最後の音は、音にならないまま、掠れた息だけが口元を通り抜けていった。


その瞬間、時間が止まったような気がした。


目の前が、真っ白になったような気がした。







嘘だ────




そんなの嘘だ────




ソロを失敗した────







遠い世界で、たたた、たんっ、と最後のフレーズの音が聞こえたような気がした。


音の余韻がホールの空間へと消えていった後、そこにはただ虚しさだけが取り残されていた。









────その後の自由曲を、私がどのように演奏し、どのような気持ちでいたのか、私の記憶の中には欠片さえも残っていないのだった。


ただ、気がつくと終わっていた────そんな感じだった。
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