SUMMER PARTY NIGHT


花火が夜空に打ちあがる時間、篠原めぐみ(しのはら めぐみ)は必ずとある人に身体を委ねている。


8月12日に毎年行われる花火大会。


曜日ではなく、毎年12日に実施される花火大会は、来場者1万人を超す人気イベントだ。


忘れたい記憶を意識が飛ぶほどの快楽で無理矢理に思考から追い出している。


高さ32階のビルからは、窓越しに必ず打ちあがった花火が見える。


「ねえ、もういいよね?」


激しく前後にベッドの上で押しやられて、両腕を背中に回す。


頷きと共に、窓の外から火花が散る音がした。


「はい」


差し出されたペットボトルの中に入った水は、すでにぬるくなってしまっている。


顎のあたりまで切りそろえられた髪の毛が汗でへばりつく。


残っている水を一気に飲み干して、篠原めぐみ(しのはら めぐみ)は空になったペットボトルを沢口 悠也(さわぐち ゆうや)に差し出した。


「キスしたい」


唇の水分を奪われて、口内を犯すように荒々しいキスをする。


「ね……もうっ」


「まだ花火は終わってないよ」


クーラーをつけているはずなのに、全身が熱い。


交わる吐息と身体中の熱が、再び帯び始める。


湿気で湿ったシーツを握りしめて、めぐみは再び悠也を受け入れた。


頭の中に浮かぶかすかな昔の恋人を忘れるためのその身体だけの約束は、相手の足枷になってしまっている。


笹山祥吾(ささやま しょうご)と知り合ったのは、めぐみが大学2年生になる年だった。


「あの……俺、篠原ことすごく、すごく好きです!」


まるで少女漫画のようなベタな告白をする祥吾のことを大好きになるにはそう時間がかからなかった。


どんな時もマメでめぐみのことを一生懸命愛してくれた。


「なあ、めぐみ。俺たちが将来結婚したらさ。子供の名前はどんなのにする?」


「もう、祥吾。気が早いよ」


「俺、一生一緒にいようと思ってるから。めぐみのこと本当に愛してるんだ」


「私だって、祥吾のこと大好きだよ」


キスもセックスも、全て祥吾だけだと思っていた。


「ねえ、めぐみ」


「ん?」


「来週花火大会行かない?」


「いいよ!」


「浴衣着てさ。まだめぐみの浴衣姿見たことないなって」


そう言って笑う彼の顔は今はもう写真を見ないと思い出せない。



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