先生、もっと抱きしめて
夜、宿題はさっぱりわからなかった。

でも、失恋の物思いにふけることはなかった。

この数日教えてもらったこととか、ノートや教科書を読み返したりして、なんとか解答を埋めることはできたし、その日の夜は、初めてスマホを見ずに寝た。

ヒロトとのLINEを読み返すことはなかった。


その代わりに……目を閉じたら、先生の、笑顔とか。
追試の散々な結果を凝視してた顔とか。

ときどき私をどきりとさせる、セリフや言い方とか。

長いまつげを伏せながら、私の涙を拭いた時のまなざしとか――。


そういうのを、ひっきりなしに思い出しては、胸の奥で温かななにかが芽生えるのを感じた。
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