マリン・ブルー
マリン・ブルー


……………

…目を開けたら、夏の陽がじんわりと僕の中に溶け込んできた。電車の揺れが徐々に止まる。眩しさに細めた目を窓に向けると、そこはもう真っ青な海だった。

少しくぐもった車掌さんの声がこの街の駅名を告げる。もう何年も耳にしていない名前だったけど、それは何の違和感もなく僕の身体中に染み渡っていった。

忘れてなんかいない。
どんなに、忘れようとしても。

少し汗ばんだ体を持ち上げて、電車から降りた。あまり涼しいと感じなかった車内だが、蒸し暑い外に出てしまえば十分に涼しかったことを実感する。

何匹いるのかわからない蝉の鳴き声と、誰もいない無人駅。

電車が去り際に残して行った生暖かい風を全身に浴びながら、僕は改めて戻ってきてしまったことを知った。

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