ぴーす
「もうちぃとで、広島ともお別れじゃねぇ。」
電車に乗って少しして、母ちゃんがポツリと呟いた。
「母ちゃんね、広島の風景が凄く好きじゃったんよ。家の前に咲く桜や、耳に響く蝉の声。もみじを踏みながら家にいんだときや、雪を投げあったときとか。」
ブォーーーーという、汽笛が鳴り、列車がゆっくり走り始めた。そのとき、
「さーーちゃーーん!!けほっ!」
こっちゃんの声がする。
「こっちゃん、おばちゃん、勇太君、真太・・・みんなも!!」
みんな駆け寄ってくる。
「わし、し・ん・た!立派にわれを見送るけんな!また遊びに来いよ!」
真太に深くうなずく。
「さっちゃん。今までありがとねぇ。おばちゃんさっちゃんがおってくれたけー・・・・それが・・支えじゃったんよ。はい・・これ、持っていきんさい、幸子。」
「おばちゃん、今までありがとう!忘れんけんね」
初めて《幸子》と言って少し照れた顔のおばさんを、私は今でも鮮明に思い出す。
「さーちゃん、うちな、さーちゃんのお陰でこぎゃん元気になったんよ。さーちゃんは、うちの初めての友達じゃけーね!さーちゃんが、もしいつかうちを忘れても、うちゃぁ忘れんけんね!」
こっちゃんが、指で2をつくる。私もそれに続く。だいぶ、列車が早くなってきたので、こっちゃんの指が触れない。必死になって私も手を伸ばす。

< 9 / 14 >

この作品をシェア

pagetop