(完)嘘で溢れた恋に涙する
あの日はサッカークラブの練習日だった。


週に3回ある練習の中の1日で、何もおかしなことはなかった。


いつもと唯一違ったのは、帰る先が自分の家ではなく、友達の家だったことだけだ。


親友で幼馴染の志賀優也の家。


いつもは母さんが仕事終わりに急いで俺を迎えにきてくれるのだが、その日は妹の海央と映画を観に行く約束だったため迎えに来れず、優也の家に迎えを頼んでいた。


家に帰り着くのは9時過ぎになるから、戸締りをしっかりしておけと何度も釘を刺されていたが、今日の朝になって優也の親から連絡が来たらしく、俺は優也の家に泊まらせてもらうことになっていた。


昔から家族ぐるみの付き合いがある志賀家には何度も泊まったことがあり、不安なことなんてなにもなかった。


「帰ってからゲームしような」



「新しいゲームソフト買ってもらったんだろ?それやらせてよ」


「あー、あれ難しいからな。陸玖にはまだ早いんじゃない?」


「そんなことねえし」


そんな話をしながら優也のお父さんが来てくれるのをまだかまだかと待っていた。


優也の家に泊まったり、遊びに行ったりする時の1番の楽しみは優也の持っていたテレビゲームだった。


俺の家は数年前に父さんが病気で死んでしまってから、母さんは必死に働いてくれたものの、とても裕福とは言い難い生活だった。


毎日普通に生活をするのが精一杯で、ゲームを買うお金なんてもちろんなかった。


それでも大好きなサッカーを続けさせてもらってるんだから、文句は何も言えないし、そもそも不満もなかった。


だけど、やっぱり学校の友達やサッカーの友達の話す新作ゲームの話題についていけないのは少しだけ寂しかった。


そんな俺に気づいていたのか、優也は新しいゲームソフトを買うとすぐに俺を呼んでくれて一緒に遊んでくれていた。


そのおかげでゲームの話題で同じように盛り上がることはできなくても、あからさまにはみ出してしまうことは一回もなかったと思う。


優也は本当に優しいやつだった。


サッカーチームでは俺がキャプテン、優也が副キャプテンで、ポジションも同じFWでツートップを張っていて、


試合の時は集中しすぎてつい周りが見えなくなってしまう俺をいつも穏やかになだめてくれていた。


学校でも、偶然6年間同じクラスでたまに喧嘩はしながらもいつも一緒。


学校の先生や、サッカーの監督、そして親たちにもお前たちは2人で1つみたいなもんだなとまで言われるくらい俺にとって優也はいなくてはいけない大切な人だった。



心の底から信頼していて、家族同然の存在だった。



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