(完)嘘で溢れた恋に涙する
透はあのバドミントンの大会の後から、急に部活に真面目に取り組むようになった。


その見間違える姿は透を知る学校中の人間が驚いたほどだった。


ほとんどサッカー部を放任していた顧問のもとに透が自ら真剣に指導を頼みに行ったらしいが、顧問はあまりにも驚きすぎて本気で腰を抜かして、透を病院に連れて行こうとしたらしい。


その上透はその生まれ持った人を引き付ける魅力を生かして、それまで透と同じく部活など所詮遊びの場と考えていた他の部員、先輩までもを自分に巻き込んだ。


さらに新入部員まで集めて今やサッカー部は毎日練習を日が暮れるまでやる普通の部活となった。


確かに冗談半分で、透に部活に真剣になれという口約束もしたような気もするけどそんなの余裕でなかったことにするものだと思っていた。


あれほどのらりくらりと面倒ごとを避けるように生きてきた透が私の言葉でこんなに変わるはずがない。


だから、何度も聞いた。


透を変えたのは何なのかと。


まあ一向に教えてくれることはないけど。


今も練習中みたいで、他の部員たちはグラウンドをランニングしている。


「あんた抜けていいの?」


「俺キャプテンだから」


「理由になってないって」


こういうところは何も変わっていない。


「由姫、ちょっと顔が明るくなったな」


ふいに透が私の顔をみながらそんなことを言ってくる。


「そうかな」


「うん。昨日まで負のオーラを全身に纏ってたけど、今は少しだけそれがなくなってる気がする」


「少しだけね」


溜息をつくと、透は急にフェンスに手を突っ込んで私の手を握った。


「もういいだろ。もう十分由姫は悩んだだろ。これ以上悩まなくていい」


そんなことを言いながら、徐々に私の手を握る力を強くする。


何のことを言っているのかはよくわかってる。


だけど。


「美結もあんたもずっとそう言ってくれるけど、無理だよ。
私は陸玖から言われたことを受け止めて、これからどうするべきか悩まなきゃダメなの。
私は逃げちゃダメなの」


不思議なくらい穏やかな声が出た。


透が言った、私が少し明るくなったというのは本当みたい。


数日前なら私はこんな声出せなかった。


「でも、お前はあいつのことが好きなんだろ。
好きなやつからあんな酷いこと言われて受け止めるなんてそんなきついこと」


確かにきつい。


あの日の陸玖の私を見つめる瞳は冷たくて、わかりきっていたことだけど、あの幸せな日々にあった温かさなんて一切なかった。




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