透明人間の色



守木との出会いは、守木の言うような素晴らしいものでは決してなかった。


僕はその前日に初仕事で失敗をしていて、あの人に早朝から事の報告をしに行きその後のこと。

事の顛末なんてもう紫から報告を受けているだろうに、なぜ僕からも言わなきゃいけないんだと、報告が終わっても悶々としいた。

だからだろう。
気がついたら僕は家を飛び出していた。


その日は雨が降っていて、僕は傘なんて持ってなかったけど、外の世界に嫌な感じはしなかった。

夏の雨は、心地がいい。

フラフラと目的もなく歩いていると、歩道橋の手すりに座っている男と目が合った。


それが、守木亮介と僕の出会いである。


「あのー」

先に声をかけてきたのはもちろん僕ではなくて、


「傘いります?」


上からそう叫んできた怪しげな男は、手にした傘をクルクル回す。


「いらん」


せっかく気分が好転してきていたのに、変質者に絡まれるなんてとんでもない。

無視を決め込んで通りすぎようとしたときだった。


「………優しいですね」


気持ち悪い言葉が耳に飛び込んできたのだ。


「なっ」

思わず足を止めてしまったのは、きっと前日のことがあったからだと思う。


「お前の目は節穴か」


きっとこれがあの日の翌日でなかったなら、こんなこと絶対言わなかった。


でも、そのときの僕には、優しいなんて、まるでケンカを売られたのかと錯覚するような言葉だったんだ。


つい感情的になった僕は止まらない。



「僕は昨日人殺しになったんだ。優しいわけがない」


< 231 / 248 >

この作品をシェア

pagetop