透明人間の色



トイレを出たとき時間は六時前だった。夏だから、辺りはまだ明るい。

それもこの一時間くらいだろう。

カフェにふらっと立ち寄ると私はスマホをいじってナンパをするスポットを検索した。

十五分ほど調べて、この辺で一番近いのは、地下鉄で三つほど行ったところにあるらしいことが分かった。

私はカフェを後にして五分歩いたところで、地下にもぐる。

切符を買うためにあけた財布の中身は、残り六千円。

意味もなく、もう少し持ってくれば良かったと少し後悔する。別にお金でイケメンを買うわけじゃないのに。

惜しくなったお金を入れて、私は切符を手に入れた。

地下鉄で三つだとあっという間だった。地上に出ると夕日に染まる空。

別に綺麗ではなかった。いつもと同じ見飽きた色だ。

検索に引っ掛かったところに行くと、そこは広場みたいになっていて、出来れば関わりたくないような人種っぽい人もたくさんいた。

だが、今さら引くわけにもいかないので、私はそこの空いていたベンチに腰を下ろした。

イケメンウォッチングはなかなか難しい。
イケメン風な人はいっぱいいる。でも、私の目に敵う人は見つからない。


いつの間にか七時半に時刻は回っていた。

「ねえねえ」
最初はその声が誰に話しかけているのか分からなかった。


それはその人が私の目にとまってなかったからだ。


「花柄ワンピのあんただよ」
そう相手が言わなかったら殴られるまで分かんなかったかもしれない。

「あっ、はい。なんでしょう?」
「なんで?」
「は?」
「なんでこんなところにいるの?」
私は改めてその男を見た。スタイルこそそこそこいいけど、顔は残念だ。髪はきれいにセットしてあるから余計に。

彼はイケメン風に過ぎない。

私は彼を視線から外すと、無難に答えることにした。 

「人を待ってるんです」
「ふーん。じゃあ、その人来るまで話し相手になってあげようか?」

なるほど。イケメン風ならこちらがナンパしなくても釣れるというわけだ。

だが、それでは困る。

「すみませんが、あと五分で来るそうなので」
「じゃあ、五分だけ」

イケメンではないが、なかなかに手強い。たくさん遊んできたのだろう。

このままでは埒があかない。




「では、今年の芥川賞の予想をしましょう」



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