御曹司を探してみたら

「落ち着かないの?」

「少し……」

「彼氏とはこういう所に来ないの?」

「あはは。彼氏なんてしばらくいませんよ」

私は正直に白状してしまった。

これまで合コンや友人の紹介で出会いを求めてきたけれど、どれもいまいちパッとしなくて。

友人にもあんたは理想が高すぎるって怒られ、最近ではセッティングを断られることもしばしばだった。

そのおかげかわからないけれど、こうして田辺さんと知り合えたわけだし。

結果オーライってことかな?

私はふふふっと笑みを零すと、グラス中の液体を飲み干した。

「そう、意外だったな……」

田辺さんはカウンターに頬杖をついて、何か思案しているようだった。

かと思えば、先ほど私が空にしたばかりのグラスを持ち上げ、バーテンダーに声を掛けた。

「……彼女に同じものを」

……何だか夢のようだった。

田辺さんが私に微笑みかけているのを見て、天にも昇る気持ちになる。

(今日は素敵な夜になりそう……)

輝くばかりの夜景の中、隣には田辺さんという極上の男性がいる。

雰囲気に酔ったのか、バーという空間に慣れたのか。

私は間違いなく浮かれていて、次第に冷静な判断力を失っていったのだった。

< 42 / 264 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop