金曜日の溺愛にはかなわない(完)
……
「社長ー。今日は…「残業ないとでも思ってるのか?」



あたしの震える声を遮って伝えられる期待はずれの声。



「今日も…ですか」


「わかってるだろ?」


「…はい」



毎週金曜日。
みんなが帰ったあとのオフィスで。



「現実を甘く見るなよ」



こんなことが口癖のうちの会社の社長。



「ほら今日もやるぞ」



社長が出してきてアパレルのカタログ。



「はぁーい」



社長のデスクからそれをとって、自分のデスクに持っていく。


少数精鋭のデザイン会社で
社長もあたしもほかのみんなも同じ部屋。
社長室なんてものはない。



━━シャキッシャキッ



あたしのハサミを使う音が鳴り響く。


毎週金曜日の残業は。
その週に出たアパレル雑誌の服をすべて切り抜くこと。
これがはじまったのはいつのことだったっけ。


あぁ、あの日は大雪の日だ。
思い出した。

ハサミで切りながら、あの日を思い出す。

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