ずっとずっと、キミとあの夏をおぼえてる。
それでも懸命に練習に励む大河の姿がかっこよくて、私は満足なんだけど、やっぱり彼は甲子園に行きたいという夢を持っている。


私は電話が切れるとすぐにカバンを持ち、家を出た。


それから五分。早着替えの名人、大河が、手にカレーパンを持ち隣の家から飛び出してくる。

朝食が準備されていても、食べる時間がないのだ。


絶対に髪をとかす時間なんてなかったのに、彼の髪はサラサラで、寝癖ひとつない。

ちょっと癖がある私は、肩下十五センチくらいの髪を念入りにストレートアイロンで整えて結んでくるというのに、神様って不公平だ。


二重のはっきりした大きな目とわりと高い鼻。
眉は細めだけど凛々しくて、野球選手というよりモデルでもやっていそうな顔立ち。

でも、小さな頃から野球漬けだった彼は、体はがっしりとしていていつの間にか百六十一センチの私より二十センチ近くも高くなっている。


「栞、行くぞ」


私が待っていたのに、待たせたかのような言い方をする彼は、私の頭をクシャッと撫でる。
< 2 / 152 >

この作品をシェア

pagetop