溺愛はいらない。



そのあとの業務はとにかく集中できなかった。


『えっ、大神さん…!?』


総務部の業務の一環である、各部署への配達物を配りに回れば、なぜか驚かれるのだ。


「何か…?」

『め、珍しいね…大神さんが、巻き髪なんて…』


ああ、この人もか。

心の中で重い溜息が思わず溢れる。

目の前の男性社員がジロジロと私を見てくるのを鬱陶しく思いながら、やっぱり後ろ髪までアイロンかけとけばよかったと後悔したってもう遅い。

普段ストレートヘアな私がいきなり巻き髪になったからって、そんなに驚くかな…。ああ、でも。

こんなに至るところで声をかけられて驚かれるのは、私が黒髪であることも一つの要因かもしれないと思い直した。

確かに、黒髪の巻き髪はよく目立つだろう。私の主観がほぼ占めるが、黒髪巻き髪は、はっきり言って不自然だ。

巻き髪というものは、やっぱり重たいイメージが強い黒よりも、さとみのような茶色で女の子らしい髪色にこそ似合うと思う。


「私、天然パーマなんです。今日1日、お見苦しい姿で申し訳ないです。では、これで。」

『あっ……勿体無いな、似合うのに。』


背を向けた瞬間に男性社員の口から言葉に、どうせお世辞だろうとまともに受け取らなかった私は聞かなかったフリをしてその場を立ち去った。



< 2 / 15 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop