嘘は輝(ひかり)への道しるべ
好きな人への道しるべ
 いつの間にか、町ではクリスマスソングが流れだし、頬に当たる風を冷たく感じる季節になっていた。

 白いコートのファーの中からのぞかせたヒカリが、赤いリップの口を尖らせた愛らしい写真が、デパートの壁に大きく張り出されている。
 大手化粧品メーカーの口紅のCMで流れている物だ。
 この口紅は発売と同時に売り切れ、入荷まで一か月待ちとなっている。
 確かに、このCMのヒカリを見たら、クリスマスの夜に使いたいと思う女心も分からなくは無い。


 学校と仕事の両立に、愛輝も美香も慌ただしい日々を送っていた。

 事務所で愛輝からヒカリへとなり仕事へ向かう事が多かったが、その日は祐介とのスケジュールが合わず、撮影スタジオまで愛輝のままで向かった。


「愛輝、急いで、遅れるよ!」

 美香の言葉に、愛輝は急いでスタジオの階段を駆け下りた。

 あまりの勢いに、愛輝は階段から足を踏み外し、体が傾く感覚に「あっ!」と悲鳴を上げた。

 もうダメだと目を固く閉じた瞬間、愛輝の体を誰かが力強く引き上げた。

 愛輝は突然の出来事に体が動かず、誰かに抱かれている事にも気付かなかった。

 愛輝は息を切らし、固く閉じた目を恐る恐る開けた。


「重いんだけど… 自分で立ってくれよ」

 不機嫌そうな男の声が耳もとで聞こえたが、体がすぐに動かない。


 愛輝は声の主の胸に体重をかけ、すっぽりと埋まっていたのだ。


 愛輝は自分の状況に気付き、慌てて立ち上がり、声のした男の顔へ目を向けた。


「す、すみません……」愛輝は深々と頭を下げた。


 茶色のサングラスをした、二十歳前半の若い男が機嫌悪そうに、床に落ちたギターケースを肩に掛け立ち上がった。


「ありがとうございました」


 愛輝がもう一度お礼を言ったが、その男は何も言わずに、階段を下りて行ってしまった。


「愛輝、早く!」


 その男を呆然と見送っていた愛輝は、我にかえり慌てて美香の後を追った。
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