嘘は輝(ひかり)への道しるべ
「あっ。祐介さんが帰って来たみたい。私、仕事の話があるんだ。
 それじゃあ真二さんごゆっくり」


 愛輝は、忙しそうに部屋を出て行ってしまった。


「なんか、凄い子だな…… 胸の中まで読まれそうで怖いな……」

 真二が、恐ろしそうに震える真似をした。


「本当に美香ちゃんて凄いんだ! 何でも分かっちゃうんだよね…… 大切な親友よ」

 


「愛輝だから、すごい親友が作れるんだよ」


「えっ?」

 愛輝は、真二の言葉の意味がよく分からなかった。


「それより、熱出したんだって? 大丈夫なのか?」

 真二が心配そうに愛輝をみた。


「うん。ありがとう…… 下がったみたい」


「夕べ、びしょびしょに濡れていたからな……」


「ごめんね…… 夕べは迷惑かけちゃって……」


「迷惑なんて言うなよ…… 俺の所に来てくれて嬉しかった」

 真二は愛輝のベッドに近づき、愛輝の頭を自分の胸に引き寄せた。

 愛輝は、暖かい真二の胸の中で、コクンと懐いた。

 真二は片手で、愛輝の顔を上に向かせ、優しく唇を重ねながら、愛輝の頬を撫でた。


 突然、ドアをノックする音がし、真二は慌ててベッドから離れた。



「失礼しまーす。祐介さんが、どうしても真二さんの顔を見たいっていうからさあ…」

 美香が声を弾ませて部屋に入って来た。


「俺はそんな事言ってないだろう! 美香が会った方が良いって、言ったんだろう?」


「祐介さんが、部屋に二人きりにしたのか?って、怒ったんじゃない!」


「俺は怒ってない!」

 祐介が美香に続いて入って来た。


「はじめまして。木崎です」

 真二が祐介に向かって頭を下げた。


「愛輝が、夕べはご迷惑おかけしました」

 祐介も頭を下げる。


「いいえ。俺は何も……」


「うちの門限は九時ですので、今後は宜しくお願いします」

 祐介が真二に手を差出た。

 真二も手を出し、二人は握手した。


「ちょっと―。今、門限の話しをしなくてもいいでしょ!」

 愛輝の怒った顔が真っ赤になった。


「いいや、大事な事だ!」

 祐介が真面目な顔で言った。


「そろそろ帰るよ……」

 真二が部屋の時計に目をやった。
 六時を回っている。



「真二くん、車どうしたの?」

 愛輝は、美香の話を聞いた時から不思議に思っていた。


「駅前の駐車場に停めてきた……」


「えっ。どうして?」

 愛輝には、真二の行動が全く分からない。


「どうやって門を開ければいいか分からないし…… 車で入る勇気が無かった……」

 真二の力ない言葉に、三人は顔を見合わせ笑い出した。


 なんだか、幸せな気持ちが愛輝を包み込んだ……

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