唇に、ちよこれいと
いくつもチョコレートをもらうほど、引く手があるくせに。
それなのに、なぜ、今私の両足の間に右足を差し込んでいるのだろう。なぜ、なぜ、といくらでも疑問が浮かんできていた。それでもそのすべての疑問を口にすることもできずに、私は思い切り視線を逸らした。


「だ、から、なんですか……」


問う声が震える。ああ、どうして。こんなことになるつもりなどなかったのに。私は、この男に惚れるような、愚かな女になるつもりはなかったのに。

こんな距離でこの男を見つめるなんて、するべきじゃないのに。


「だから、チョコなんかより、お前の血の方が、旨そうに見えたんだよ」


そう言って、蓮見さんは、もう一度私の唇を噛んでいた。










午前三時。

情事後の気だるげな体を引き摺りながら、ソファで事切れたように眠る女の腫れた唇に無意識に唇が歪んだ。


この女は知らない。今日の残業の原因になった資料のデータを削除したのが俺であることを。終電を逃させて、こうなるように仕組んでいたことも。


しかし誤算だった。こいつがここまで優秀だったとは。

終電前にすべてを終えた我が部下に、俺の欲望は留まることを知らなかった。


「ごちそーさん」



思い浮かべる鉄の味は、今まで口に入れたどのチョコレートよりも暴力的で、甘美だ。それは、いつまでも俺の手に落ちてこないこの女のようだ。思い浮かべて、俺はソファで眠る女の顔を飽きることなく見つめていた。


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