sweet voice
そうだった。


忘れてたけど、伸二くんに『別れよう』って言わなきゃいけないんだった。


数ヵ月だけのつきあいになるとはね・・・


自分が嫌いになりそうだ。


「花音の歯ブラシ、置いとくから」


「ありがとうございます」


「支度できたら、そろそろ出るぞ」


「はい」


食器を洗っていたら、荒井さんが後ろから抱きしめてきた。


「いい報告、待ってるからな」


「えっ?」


思わず振り向いた私に、荒井さんは素早くキスしてきた。


「もーらい」


そうおどけた荒井さんは、子どもみたいな笑顔だった。


アパートまで送ってもらい、帰り間際に荒井さんは、


「また連絡する」


とだけ言って、車は走り去った。


部屋に戻ると、現実に引き戻された。


あわてて着替えてメイクしながら、昨日から今朝までのことは嘘だったんじゃないかと思った。


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