晴れのち曇り ときどき溺愛
 創立記念のパーティが行われるのは都内でも有名なホテルでその存在は知っていたけど、予想を超えた豪華さに目を見張る。完全に場違いだと思う場所に私は来てしまった。大理石を贅沢に使って作られた玄関にはドアマンが居て、タクシーが玄関に到着すると、優雅に横に立ち、ドアを開けてくれた。


「ようこそお越しくださいました。お荷物はございますか?」

「いえ、大丈夫です」


 軽く会釈してからドキドキしながらエントランスホールに入ると、吹き抜けの天井の高さに驚いた。広がりのある空間は完全に日常とは切り離されている。大きな大理石の柱が規則的に並び、光筋ののようなシャンデリアが淡く辺りを照らしている。床はベージュピンクの大理石。ホールにはいくつものソファが置いてあり、そこにもまたセレブ感の溢れる人が座って談笑している。


 パーティドレスを着ている人もたくさんいて、このドレスを借りてきて本当によかったと思った。この格好じゃ浮くことはないだろう。


 歩くたびにパンプスの踵がコツコツと音を立て、その度に私の緊張は高まっていく。

 綺麗に着飾って見ても私は場違いだと本気で思うし、回れ右して帰りたくて仕方ない。エントランスホールには下坂さんの姿はなかった。

 
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