晴れのち曇り ときどき溺愛

溺愛のち溺愛 ときどき溺愛

 進藤さんが応接室を出て行くと横に居る下坂さんは不機嫌を隠すことなく私の横で深くソファに背中を付ける。立ち上がって帰らないといけないと思うけど、下坂さんは座ったまま。

「隆二から連絡来ても行かないで。まだ付き合ってないから梨佳の自由だけど俺は行って欲しくない」

 下坂さんは本当にズルい人だった。さっきまでの強硬な言葉がどこに行ったかと思うくらいに弱音のような本音を口にするからドキドキする。

「行きません。今は仕事が大事ですから」

「俺じゃなくて仕事?」

「仕事です」

 進藤商事からの帰り道。車の中で下坂さんは淡々とシステムのことを話し続ける。その話はかなり難しい事柄まで含んでいて、私の理解力では聞いただけでは理解出来ない。

「難しいです」

「時間がないから早く覚えて欲しい。見城の手助けをして貰いたいし、俺が居なくなっても諸住さんには頑張って貰いたいと思う」

「本当に移動されるんですね」

「どこに行くか分からないけどな」

「どうして今なんですか?」

 なんで今なのだろうと私は思っていた。元の私が勤めていた会社を吸収合併して、システム課としては業績も順調。進藤商事での取引も感触としては悪くない。

「教えられない。でも、梨佳のことを一番に考えている」


 下坂さんの辞令が出たのはそれから直ぐで、その辞令には誰もが驚いた。


『下坂春臣。S&S株式会社営業課システム課の室長の任を解き、解雇とする』
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