晴れのち曇り ときどき溺愛
 会ったのはお見合いの日と、琉生と行った居酒屋。そして、上司と部下となった今日の三日だけ。たったそれだけの時間しか一緒に居なかったのに、私は下坂さんのことばかりを考えてしまう。


 居酒屋で渡された名刺も捨てられずに財布の中に入ったまま。認めたくない心がジワジワと奥から染み出してくる。揺れる天秤はどちらに傾くも私次第のはずなのに私の心を埋め尽くす。


 決して望んだことではなかった。流されるように始まった思いは自分の気持ちでは押し込めないほどに膨らんでしまった。


『私の言っている意味は分かるか?営業補佐ではなく、営業の出来る一員になって欲しいと思っている』


 下坂さんが営業室で言った言葉。その言葉に素直に応えたいと思う私はもう後戻り出来そうもない。自分のベッドで何度か寝返りを打ち、両腕で顔を隠し、言っては止められなくなる言葉が溢れてしまった。


『好きになってしまった。下坂さんが好き』


 認めると抗うことさえも無意味だと思った。溢れ出した言葉はもう止められなかった。


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