魅惑への助走
***


 「……へーっ。女性向けAV。噂には聞いてたけど」


 レジの店員が、奥にいた店長を呼んで来たので。


 先に名刺を渡した松平社長に続いて、私もアダルトビデオレンタル店の店長に名刺を差し出した。


 私も時折、営業活動をする。


 ほぼ毎回、松平社長と二人で。


 AVを扱う、都内のレンタルビデオ店やショップを巡る。


 未設置の店舗には、SWEET LOVE商品を新たに置いてもらえるよう交渉。


 すでに専用コーナーのある店では、さらに目立つ場所で販売してもらえるようお願いする。


 スムーズに交渉が進むことは、稀。


 店によっては女性向けAVに関する知識や認識を、全く持ち合わせていない所もあり。


 そういう店舗での設置交渉は、困難を極めることも。


 「女性向けAVって、つまりそれは、女性向けにソフトな内容なの?」


 「ええとですね、我がSWEET LOVE社では、主に女性に視聴してもらい、愛の行為を適切に楽しみ、日々の糧となってもらえるよう……」


 社長が説明するも、


 「じゃ、性の指南書みたいなやつ?」


 「そういう側面もありますが、それ以外にも、ヴィジュアルモデルと呼ばれるイケメン男優を起用して、美麗な映像面も楽しんでいただきたいと」
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