魅惑への助走
***


 「ここで撮影するんですか」


 榊原先輩とタクシーに乗り、辿り着いた先は歓楽街の一角。


 「どう見ても雑居ビルっていうか……」


 キャバクラとか、そういうお店が入っていそうな雰囲気。


 「昔は各階にキャバクラやホストクラブが入っていて、賑わっていたようだけど……。知ってる? 数年前の火災事故」


 「火災?」


 住所と時期から思い出すことができた。


 確か雑居ビルの最上階の物置で、漏電のため出火。


 廊下や階段に置かれた荷物のため、防火扉が開かなかったり逃げ場が失われたり。


 煙草の煙に反応しないよう、火災報知機もスイッチ切られていたりスプリンクラーの設置もずさんだったり。


 それゆえ被害が広がって、数十人の死者が出たという。


 運悪くその時キャバクラでは大音響で音楽が流れる、いかがわしいサービスタイム。


 煙ですら演出と勘違いされ、火災の発見が遅くなったのも被害を拡大させた原因だったみたい。
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